実は、イギリス生活最初の一年目、僕はロンドンではなくレディングという小さな町に住んでいました。とある大学の語学コースに入学し、住まいも大学が運営する寮に決めました。その寮は校舎棟に隣接していて、かなり便利で過ごしやすい環境だったことは間違いないのですが、何より苦痛だったのが、想像していた以上に生活スタイルにギャップがあったこと。多くの留学生が最初に感じることでしょうが、先ず住環境に対する意識が違いすぎる。「『ウチとソト』の境界には、下足の着脱と関連性がある」など聞き慣れた指摘ですが、そもそもそんな境界すら彼らにはないのかも知れないと思ったほどです。
それまであまり人のいなかった寮に、新学期とともに大勢の学生が移り住んできたかと思えば、毎晩朝までクラブにいるかのようなドンチャン騒ぎ。共有スペースであるダイニングキッチンでは、大音量の音楽とゴミ箱に入りきらないビール缶の山。睡眠不足の日々でした。さらに衝撃を受けたのは、その寮では火災警報機が鳴ると全員すぐに屋外へ避難しなければならないことになっていて、わずか数分の内に消防隊員が現場へかけつけてくれるのですが、原因は大抵ダイニングキッチンでのパーティー中の誰かの喫煙であるにもかかわらず、その隊員たちを見て彼らのボルテージは最高潮に。ちなみに、多くのヨーロッパの国では屋内での喫煙が法律で禁止されています。
決して嫌なやつばかりだったと言っているのではなく、むしろ大半が良いやつらだったのだと思います。後々考えると、彼らは皆弱冠二十歳。高校を卒業したばかりで、初めて親元を離れて暮らすわけだから、毎日が天国だったはず。とは言え、何せあの頃は留学したことを後悔するばかりでした。
(写真:レディング駅)