後半二十分を過ぎた頃だったでしょうか、後ろ髪ひかれる思いでオールド・トラフォードを後にし、念には念を入れた事前の準備通りの乗り継ぎで、無事出発三十分前にマンチェスター・ピカデリー駅に到着しました。
当然のことではありますが、日帰り旅行で最も気をつけなければならないことは、帰路便に絶対に遅れないこと。旅特有の緊張感も解れ、徐々にその街を満喫出来るようになり始める頃に、一日目というのは終わるものです。数日滞在する場合はこれでホテルへ帰れば良いのですが、日帰り旅行だと直ちに飛行機や電車、その他交通機関へのチェックインやプラットフォームの確認など、また別種の緊張感を伴う作業が待っていて、もしうっかり乗り過ごすなんてことになると、もちろんそれからその日の宿を探さなければならなくなるわけで、これはもう大変なんてものではありません。しかも、パリからの友人を伴っていたので、僕たちはいつも以上に帰りの電車を気にかけていたのです。
万全すぎるほどの準備によって、ロンドン行きの最終列車に乗りこみ、向き合っているグループ用の席を一つ見つけ、出発の時を待っていました。事前に予約してあった席は離れ離れだったのですが、さっきまでの興奮を共有し合いたい僕たちは、その電車が混雑するとは露とも思えなかったので、チケットに記載されている座席は気にせず勝手な席に座っていたのです。
しかし、事態は急変します。発車寸前になって人、人、人の波。あれよ、あれよという間に自分たちの予約席に座らざるを得ない状況となり、僕はある家族の父、娘、息子の三人と一つのグループ席を囲むことになりました。乗客のほとんどが大量のマンユーサポーターとなり、車両はみるみるうちに、さながらパブへと様変わり。何人がかりでも持ち切れない量の缶ビールを持ち込み、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。半ば喧嘩状態でふざけ合い、通路を通り過ぎる乗客には容赦なく絡む始末でした。席を離れようにも、僕と同席の家族は全員が机に突っ伏して寝ているし、通路には最早フーリガンと呼んでも良いような男たちが暴れ狂っているわけで、身動きとれないままロンドンへ到着したのでした。
(写真:夕刻のオールド・トラフォード外観)